犬のリンパ腫
リンパ腫とは、白血球の一種であるリンパ球が腫瘍性に異常増殖する血液の悪性腫瘍です。
血液のリンパ球は免疫細胞として全身に存在するため、その腫瘍であるリンパ腫も全身どこにでも発生する可能性があります。
特に犬の場合、リンパ腫は乳腺腫瘍と並んで発生頻度の高い腫瘍の一つで、犬の腫瘍全体の7〜24%を占めると言われています。
このページでは、犬のリンパ腫について詳しく解説します。
リンパ腫とは、リンパ球、リンパ組織(リンパ節)が腫瘍化し増殖する悪性腫瘍のことです。
犬のリンパ腫に関しては、ウイルスなどの明らかな原因はまだわかっておらず、全ての犬種において発生する可能性があります。
リンパ球、リンパ組織(リンパ節)は体の至る所に存在しているため、リンパ腫の病態は非常に変化に富んでいます。
犬のリンパ腫は、発生部位によって分類され、それぞれで主な症状が異なります。また、明確に分類することが難しいリンパ腫も多くあります。
リンパ腫全体の約80%を占める最も多いタイプです。体表にあるリンパ節 (下顎リンパ節や鼠径リンパ節、膝窩リンパ節など)が腫大し、進行に従って肝臓、脾臓、骨髄、脳などへ広がります。
体重減少、食欲不振、元気消失などの一般的に判断しづらい症状が見られます。
胸腔内にある前縦隔リンパ節あるいは胸腺が腫瘍化し腫大します。
腫瘤による肺の圧迫や胸水貯留によって呼吸困難が生じることがあります。
リンパ腫全体の5~7%に認められるタイプです。
消化機能の低下や吸収不良により下痢、嘔吐、体重減少、食欲不振などが見られます。
皮膚に腫瘍が発生する珍しいタイプです。一つの腫瘍が単独で発生する孤立性の場合もあれば、全身に腫瘍が多発することもあります。
眼、中枢神経系、骨など様々な組織から発生しますが、極めて珍しいタイプです。
発生した組織に関連した症状が現れます。
なお、リンパ腫はリンパ節の腫れ以外は、特徴的な症状がほとんど現れないため、飼い主様が異変に気づいた頃にはかなりステージが進行していることもあります。
触診、視診、画像診断によりリンパ節の腫大やリンパ腫を疑うしこりが見つかった場合は、細胞診という細い針をリンパ節に刺してリンパ節の細胞を採取する検査を行います。体表のリンパ組織であれば麻酔をかける必要はなく、チクッとした痛みを感じる程度です。
腹腔内のリンパ腫であっても、開腹手術をせずに超音波で組織を確認しながら、細い針を皮膚から刺して細胞を採取できます。(超音波ガイド下経皮的生検)
採取した細胞を顕微鏡で検査し、腫瘍化したリンパ球が多数確認されれば、リンパ腫と診断できます。
また、リンパ球の腫瘍化を遺伝子解析、特殊免疫染色で検出する診断法も有用です。
消化器型リンパ腫が疑われる場合は、内視鏡検査を実施し、消化管の一部(胃、腸)の組織を採取して病理検査に提出することで診断が可能です。
また、全身状態の把握や、末梢血に腫瘍化したリンパ球が出現していないかを調べるために、血液検査や画像検査(レントゲン検査、超音波検査など)も合わせて行います。
内視鏡についてはこちらで解説しています
最もわかりやすいのは体の表面のリンパ節(下顎、股の付け根等)が腫瘍化する「多中心型リンパ腫」ですが、リンパ組織は身体中の至るところにあるため、どの臓器がリンパ腫になってもおかしくありません。
リンパ腫は大きく組織を切除しなくても、少量の細胞で診断がつく疾患です。診断の段階で侵襲性の高い検査を行うことは、後の治療にとって不利になるため、当院ではなるべく小さい侵襲度で早く正確な診断を行うことを心がけています。
リンパ腫の治療の基本は化学療法(抗がん剤治療)です。
一般に悪性腫瘍の治療は外科切除がメインで、抗がん剤は補助的な役割が多いですが、リンパ腫では違います。リンパ腫では治療の中心となるのは化学療法(抗がん剤治療)で、外科切除は補助、診断のために行われます。それだけ、リンパ腫は抗がん剤が良く効く悪性腫瘍ということです。
使用する抗がん剤は多種多様で代表的なものには、ビンクリスチン、シクロホスファミド、ドキソルビシン、ロムスチンなどがあります。また、抗がん剤ではありませんがステロイド剤もリンパ腫には有効です。これらを動物の全身状態やリンパ腫の種類(分化型、T細胞性またはB細胞性、臨床ステージ)に応じて組み合わせ、治療します。
治療を進めていく中で、一見するとリンパ節の腫れが引き、元気や食欲が改善し、治ったように見えても、微量の腫瘍細胞が残っています。再度増殖しないように、治療を継続する必要があります。
リンパ腫は完治を望むのは難しい病気ですが、寛解(症状がない)期間を抗がん剤で延ばしていくことが目標になります。
残念ながらリンパ腫の予防法はありません。しかし、がん治療においては早期発見と早期治療が何よりも大切ですので、定期的に健康診断を受けて、愛犬の健康状態を把握しておきましょう。
もし、どこか元気がない、最近食欲が減退した、下痢が続くなど、何か気になることがあれば、自宅で様子見をせずに獣医師にご相談ください。
リンパ腫の治療は長期化する傾向にあるため、覚悟を持ってできることを粘り強く続けていくことが重要です。
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