軟口蓋過長症
軟口蓋過長症(なんこうがいかちょうしょう)は、特にフレンチ・ブルドッグ、パグ、シー・ズー、チワワなどの短頭種に見られる呼吸器系の病気です。
軟口蓋(口蓋の奥にある柔らかい部分)が生まれつき長すぎるため、空気の流れを遮り、呼吸時にいびきに似た音を発します。
この病気の犬は、熱中症や麻酔のリスクが高まるため、注意が必要です。
このページでは、犬の軟口蓋過長の原因や症状、診断方法、治療方法などについて詳しく解説します。
軟口蓋とは鼻腔と口腔を隔てている、口蓋の軟部組織で構成された領域です。
このすぐ下には食道と気管の入り口(喉頭蓋)が位置しています。
通常、軟口蓋は気管の入り口の先端にほんのわずかに重なる程度の長さを持っています。これにより、食べ物を飲み込む際に気管に入らないように保護するとともに、呼吸の際に空気の通り道を確保しています。
しかし、軟口蓋過長症を持つ犬では、軟口蓋が異常に長く、気管の入り口を覆い隠すようになってしまっています。これにより、呼吸時に空気の流れが妨げられ、呼吸がしにくくなる状態を引き起こします。
この状態は、犬が過剰に息をする原因となり、特に運動時や暑い環境下では重大な呼吸困難を引き起こすことがあります。
軟口蓋過長症のほとんどは先天的(生まれつき)の病気です。
軟口蓋過長症は、特にパグやシー・ズー、フレンチ・ブルドッグのように鼻が潰れたような外見である短頭種に特に多く見られます。
その他、キャバリア、ヨークシャー・テリア、チワワ、大型犬ではレトリーバー犬種などにも
散見されます。
*軟口蓋過長症の約80%は短頭種で発生しています。
短頭種とは鼻が短くなるように人為的交配によって生み出された犬種です。この鼻の短さが原因で、気管が完全には形成されず、鼻腔が狭くなり、軟口蓋が異常に長くて厚くなるなど、健康にとって好ましくない身体的変化が引き起こされました。
このような複合的な形態変化を「短頭種気道症候群」と呼びます。
軟口蓋過長症の主な症状は長く伸びた軟口蓋により正常な呼吸が妨げられることで、以下のような症状が見られます。
・寝ている時によくいびきをかく
・散歩の後など運動や興奮した時にガーガーという特徴的な喘鳴音がする(重度の場合は平常時でも異常呼吸音が現れる)
・食事や水をうまく飲み込めず、頻繁にむせる
・呼吸時にお腹をベコベコ動かしながら、口を開けて苦しそうにする
・酸素不足により、舌の色が青紫色に変わる(チアノーゼ)
犬は通常、呼吸によって体温を下げています。
しかし、軟口蓋過長症の犬は呼吸による体温調節が苦手で、その結果、熱中症のリスクが高くなります。特に暑い夏場は、直射日光を避けた散歩や、屋内でのエアコン使用など、犬の体温管理に特別な注意が必要です。
軟口蓋過長症の診断は、以下の点を総合的に考慮して行われます。
短頭種の犬は、軟口蓋過長症をはじめとする呼吸器系の問題を抱えやすいため、この点が最初の重要な指標です。
ガーガーとした喘鳴音やいびきが聞こえるかどうかを確認します。これらは、軟口蓋過長症の典型的な症状です。
軟口蓋の長さや厚みを直接確認することで、確定診断に至ります。この検査により、軟口蓋が異常に長いことが直接的に確認できます。
軟口蓋の尾端が喉頭蓋の先端よりも尾側にずれているかどうかをレントゲンで確認します。この情報は、軟口蓋の異常な長さを確認する重要な指標になります。
特に、短頭種の犬では、軟口蓋過長症の他にも先天性の気道の異常が複合して現れる短頭種気道症候群が見られることがあるため、診断時にはこれらの状態も考慮する必要があります。
軟口蓋過長症の根治的治療は、外科手術によって長く伸びた軟口蓋を切除することです。
この手術では、余分に過長した軟口蓋を鼻先側に引っ張り、必要な部分を切除します。この処置により、呼吸を妨げていた障害が取り除かれ、犬の呼吸が大幅に改善されます。
外科手術以外にも、症状の緩和と全体的な健康状態の管理のために、さまざまな支持療法があります。
これには、軟口蓋周囲の炎症や浮腫を減らすための内科的なステロイド療法、健康的な体重を維持するためのダイエット、適切な温度環境の維持、および気管への刺激を最小限に抑えるため首輪からハーネスへの変更が含まれます。
軟口蓋過長症に対する確実な予防法は存在しないため、特に短頭種の犬を飼っている飼い主様は、以下のような予防策が大切です。
・呼吸の状態に常に注意を払う
愛犬の呼吸が苦しそうであったり、異常な音がしたりする場合は、すぐに獣医師に相談することが重要です。
・夏場の熱中症対策
エアコンの使用や、涼しい時間帯に散歩するなどして、熱中症を防ぎましょう。
・理想体重の維持
肥満は呼吸障害を悪化させるため、健康的な体重管理が必要です。
・ハーネスの使用
首輪ではなくハーネスを使用することで、気管への圧迫を避け、呼吸が楽になります。
軟口蓋過長症は放置すると生活の質の低下だけでなく、熱中症、呼吸不全など命に直結するリスクがあります。
特に呼吸障害が長期間続くと、軟口蓋の形態変化や呼吸機能の低下が進行し、加齢とともに麻酔のリスクも高まります。そのため、症状の早期発見と治療が考慮されます。
軟口蓋過長症に関して気になる点がある場合は、是非当院にご相談ください。
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