尿路結石症

猫の尿路結石症について|尿路の閉塞が要注意

尿路結石症とは何らかの原因で、尿路系(腎臓、尿管、膀胱、尿道)に結晶や結石ができてしまう病気です。
年齢を問わず発症しやすい病気の1つで、結石によって尿路が閉塞してしまうと尿が体外に排出できなくなり、命の危険もあるため注意が必要です。

このページでは、猫の尿路結石症について詳しく解説します。

原因

尿路結石の原因は様々ですが、特に尿のpH(液中の酸性度やアルカリ性度を示す数値)のバランスが重要です。
猫の正常尿のpHは5〜7程度ですが、不適切な食事を与えることで尿のpHが酸性やアルカリ性に傾き、結晶や結石が形成されてしまいます。
形成される石にはいくつかの種類があり、主に以下の2種類が猫の尿路結石として重要です。

<リン酸アンモニウムマグネシウム(通称:ストルバイト結石)>

猫のストルバイト結石の大半は塊の石ではなく細かい砂粒状の結晶です。
・尿のpHがアルカリに傾くことで発症します。
食事療法で尿を酸性化することで溶かすことが可能です。

塊状のストルバイト結石が作られることもあります

<シュウ酸カルシウム結石>

・直径1~3mm程度の小さい結石のことが多いです。
・尿のpHが酸性に傾くことで形成されます。
・食事療法や薬剤で溶けないため、外科手術で取り除く必要があります

尿石形成の原因は、他にも以下のようなものが関係していると言われています。

・飲水不足
・体質
・肥満
・ストレス など

症状と治療

腎臓で作られた尿は、尿管を通って膀胱に運ばれ、さらに尿道を通って体外に排出されます。
(腎臓→尿管→膀胱→尿道→体外)尿路結石は尿路のどこに、どんな結石があるのかによって症状と治療法が変わります

様々な状況がありますが、よくあるケースを紹介します。

<尿道結石(オス猫の尿道閉塞)の症状>

尿道結石が詰まっているオス猫のレントゲン
シュウ酸カルシウム結石が尿道と膀胱に見られる。膀胱は尿道閉塞のため過度に拡張しています。

膀胱にある膀胱結石が尿道に流れると、尿道に詰まることがあります。
オス猫はメス猫と比べて特にペニスの部分で尿道が細くなるため結石が詰まりやすいです。
尿道結石では、
頻尿、排尿時に苦しそうに鳴く、排尿姿勢を取っても尿が出ない、いつもと違う場所で排尿をするなどの排尿に関連した症状が見られます。

完全に尿道が詰まってから時間が経過すると、
重度の尿毒症に陥り、食欲元気の廃絶、嘔吐等が見られ、命に関わります。これをいわゆるオス猫の尿閉と呼び、ストルバイト、シュウ酸カルシウム結石の両方で起こります
なお、尿道閉塞による尿毒症は閉塞さえ開通させれば劇的に改善します。また、メス猫では結石による尿道閉塞は非常にまれです。

<尿道結石の治療法>

・塊状のシュウ酸カルシウム結石の場合

ペニス付近の尿道に結石が見られる

摘出したシュウ酸カルシウム結石
直径2mm程度

直径数ミリのシュウ酸カルシウム結石はオス猫の尿道にちょうど詰まりやすいサイズといえます。
治療は、カテーテルをペニス先端から尿道に挿入し、詰まった結石をひとまず膀胱内に押し戻します。
その後、開腹手術で膀胱を切開し膀胱内の結石を摘出します。

・砂粒状のストルバイト結石の場合

尿道にカテーテルを挿入するところ

取り出したストルバイト結石
細かい砂粒状結石が沈殿している

カテーテルをペニスの先端から尿道に挿入し詰まりを解除します。その際ゼリーや生理食塩水を噴射し、詰まった砂状の結石を粉砕しながら進めていきます。その後は食事療法で 膀胱に残存する結石を溶かして再発を予防します。

なお、何度も尿閉を繰り返すとペニス内の尿道が傷つき狭くなるため、さらに詰まりやすくなります。その場合は会陰尿道ろう手術(ペニスを切除し、奥の太い尿道を直接お尻に開口させる手術)を考慮します。

<膀胱結石の症状と治療>

・塊状の結石の場合

塊状の結石は膀胱粘膜を物理的に傷つけるため、頻尿、血尿を引き起こします。また大きさによっては、尿道に詰まる可能性もあります。そのため塊状の膀胱結石は、開腹手術で膀胱を切開し、膀胱内の結石を摘出します。

・砂粒状のストルバイト結石の場合

明確な症状がなければ経過観察となります。食事療法をすることもあります。

<腎臓結石の症状と治療>

腎臓に数ミリの小結石が見られることがあります。腎臓結石のほとんどはシュウ酸カルシウムです。腎臓結石は腎臓内に留まっていれば害は少なく、何ら症状を示さないことも多いですしかしながら尿管に流れると大問題となるため要注意です。
腎臓結石が認められたら、食事療法を行って新たな結石が作られないようにし、経過を注意深く観察します。

<尿管結石(尿管閉塞の症状と治療)>

腎臓で作られた数ミリの腎臓結石が尿管に流れ、尿管に詰まる状態です。尿管結石のほとんどはシュウ酸カルシウムです。
尿管に結石が詰まると、腎臓で生成された尿が適切に流れない非常に危険な状態になります。完全閉塞の場合、時間が経つと腎臓の中心部が尿の圧力で拡張する水腎症になり、腎機能が損なわれます。

腎臓は2つありますが、1つが正常に機能していれば十分生存できます。他方の腎臓が正常であれば、詰まった方の腎臓をあきらめることも選択肢の1つとなります。
しかし、気が付かないうちに1つの腎臓が機能を失っていて、もう一方の腎臓の力のみで生活していているケースがあります。
その唯一機能していた腎臓に尿管閉塞が起こると、尿が体外に排泄されなくなり、突然重度の尿毒症に陥ります。この場合結石に対する対応を余儀なくされます。

<尿管結石の内科療法>

不完全閉塞の場合は輸液(点滴)で腎臓の尿の産生を促すと、尿管の通りが改善したり、結石が膀胱まで移動することもあります。 

<尿管結石の外科療法>

尿管切開手術:尿管を切開し結石を直接取り除きます。

尿管バイパス:腎臓と膀胱を人工の尿管でつなぎ、尿の通路を確保します。これにより、結石によってブロックされた尿の流れを迂回させます。

腎ろうチューブ:体外から皮膚を貫通したチューブを腎臓の中心に挿入し、腎臓から直接尿を体外に排出させます。緊急避難的方法です。
 
これらの外科療法は、重度の尿毒症の状態で実施することもあり、リスクを伴います。

尿石症全般の食事療法について

ストルバイト結石である場合には、療法食を用いることで結石を溶解させることが可能です。シュウ酸カルシウム結石は食事療法で溶解できません。

結石が溶解した後や、外科的に摘出した後、結石の再発を防ぐためにも、尿路結石の形成を抑制するための食事療法を継続することが推奨されます。これらの食事療法には尿のpHを調節し、尿中の特定の成分(結石形成に関与する成分)の濃度を管理することで、新たな結石の形成を防ぐ効果があります。

尿石症全般の検査方法について

・血液検査

特に腎臓に関連した数値(尿素窒素、クレアチニン等)に異常がないかなどを確認します。

・腹部エコー検査

腎臓や膀胱内部の状態を評価します。
レントゲンでは見えない小さい結石でも発見でき、腎臓結石、膀胱結石の診断には適した検査法です。

・レントゲン検査

結石はレントゲンで白くはっきり映ることが多く、結石の診断にレントゲンは非常に有効です。腎臓結石、尿道結石、膀胱結石、尿道結石を同時に評価可能です。特に尿道結石、尿管結石の診断にはレントゲン検査が欠かせません。

・尿検査

飼い主様に持参していただいた尿や院内で採取した尿を検査します。
尿の比重やpH、血尿・結晶の有無、細菌感染などを調べます

予防法やご家庭での注意点

体質も発症に影響するので完全に予防することは困難ですが、尿路結石は生活の中で以下の点を意識することで、ある程度予防できます。

・常に新鮮な水を用意する
・人間の食事のような不適切なものを与えない
・ドライフードにウェットフードを混ぜる(食事由来の水分量アップ)
・こまめにおしっこの色や量、回数をチェックする
・トイレは常に清潔を保つ
・ストレスを避け、肥満に注意する
・定期的に尿検査を受ける

まとめ

結石を放置すると最終的に尿の通り道が塞がってしまい、急性腎不全や尿毒症を引き起こして命を落とすこともあるため注意が必要です。

また一度発症すると再発を繰り返すこともあるので、定期的に検査を受けることや、日頃から食事や生活環境に気を付けて、愛猫に普段と違う様子や症状が見られた場合には早めに動物病院を受診しましょう。


■当院の尿路結石症に関連する症例はこちらで紹介しています
犬の尿路結石症について|尿路に結石ができる
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