副腎皮質機能亢進症
(クッシング症候群)
中高齢の犬にしばしば見られる副腎皮質機能亢進症(クッシング症候群)は、副腎からコルチゾールというステロイドホルモンが過剰分泌される病気です。過剰なコルチゾールによる悪影響により様々な症状が現れることから、クッシング症候群とも呼ばれます。
本来コルチゾールはストレス反応、免疫応答、糖やミネラルを調整するなど、生体の維持に必要なホルモンですが、多過ぎると害になります。
このコルチゾール過剰により、飲水量の増加、お腹の周りが膨らむ、足腰が弱る、疲れ易い、皮膚や毛が薄くなるなどの様々な症状が現れます。
この病気は特定の犬種に限定されず、どの犬種でも発症する可能性がありますが、特にトイプードル、ダックスフントで多く経験されます。
このページでは、犬の副腎皮質機能亢進症の原因や症状、診断方法、治療方法などについて詳しく解説します。
副腎皮質機能亢進症の原因には、脳下垂体の腫瘍化と副腎の腫瘍化によるものがあります。
副腎とは腎臓の隣に左右2つある5〜7㎜程度のとても小さな臓器で、数種類のホルモンを分泌しており、その一つがコルチゾールです。なお、コルチゾールはいわゆるステロイドホルモンの一種です。
通常、副腎が分泌するコルチゾールは脳下垂体のコントロールにより適量に調整されていますが、まれにこの下垂体が腫瘍化することがあります。
腫瘍化した下垂体は副腎にコルチゾール産生を必要以上に促すため、副腎はコルチゾールを過剰に分泌してしまいます。
この状態が下垂体性副腎皮質機能亢進症です。
犬の副腎皮質機能亢進症の大多数は下垂体腫瘍が原因です。
副腎皮質機能亢進症には副腎が腫瘍化し、下垂体のコントロールが効かなくなり、コルチゾールを過剰分泌するものがあります。
また、医原性クッシング症候群と呼ばれる病態もあります。
これはプレドニゾロンなどのコルチゾールに似た効果を持ついわゆるステロイド薬を長期間使用することで発生する薬の副作用です。
ステロイド薬は、様々な疾患の治療で用いられることがありますが、高用量の長期的な使用は副腎皮質機能亢進症に類似した症状を引き起こすことがあります。
コルチゾール過剰の悪影響は多岐にわたるため、様々な臨床症状が現れます。
代表的なものを以下に挙げますが、この他にも数知れずあります。
過剰なコルチゾール分泌は体の水分バランスを乱し、多量の水を飲むみ(多飲)、薄い尿を大量に排泄する(多尿)症状を引き起こします。
筋肉が萎縮して腹筋が弱り、肝臓が腫大するのでお腹の周りが膨れ、垂れ気味になります。
コルチゾールは皮膚の新陳代謝に影響を与え、脱毛や薄毛、皮膚が透けて見える状態を引き起こします。
筋力が低下するため歩行が困難になります。また膝の前十字靭帯断裂も多く認められます。
副腎皮質機能亢進症と糖尿病は併発することがあります。
なお、下垂体性クッシング症候群では、上記症状に加えて、脳内の下垂体腫瘍が大型の場合、その影響で、意識障害や視力障害などの神経症状が見られることがあります。
そして、副腎性クッシング症候群では、副腎腫瘍が腹部の動脈を巻き込んだ場合、腹腔内出血、血栓塞栓症、突然死などのリスクがあります。
クッシング症候群は典型的な症状がなくても、血液検査で肝臓の数値の上昇や、超音波検査やレントゲン検査での肝臓の肥大化といった異常が見られた場合に疑われることがあります。
これらの症状が見られる場合には、適切な検査を行い、早期に診断することが重要です。
副腎皮質機能亢進症の診断は、身体検査・血液検査・尿検査・超音波検査などを用いて行います。
腹部の膨らみ具合、皮膚や毛並みの状態など、副腎皮質機能亢進症に特徴的な身体的変化を観察します。
肝臓の検査数値の上昇が見られることが多くあります。
しかしながら、副腎皮質機能亢進症は一般的な血液検査だけでは診断できません。確定的な診断には特別に血中コルチゾール値の測定を行う必要があります。
コルチゾールの測定は、ACTH刺激試験と呼ばれる検査法等で行います。
副腎は腹部超音波検査で、観察することができます。
超音波で副腎の形やサイズを測定し、腫瘍化の有無やその他の異常がないかを確認します。
下垂体性クッシング症候群を疑う場合は、脳のCT検査やMRI検査で下垂体腫瘍の大きさを確認することがあります。
下垂体性クッシング症候群と副腎性クッシング症候群では、治療方法が異なります。
現在最も一般的な治療法です。内服薬でコルチゾールを適量にコントロールします。
トリロスタンなどの副腎皮質ホルモン合成阻害剤を使用し、副腎のコルチゾール産生を抑制する治療法です。内科治療は、長期的な管理が必要ですが、多くの場合、症状を効果的に抑え、生活の質を向上させることができます。
下垂体腫瘍のサイズが著しく大きい場合、内科療法は効果が乏しいケースが多くあります。
放射線治療は、下垂体腫瘍に直接放射線を照射し、その成長を抑制または腫瘍を縮小させる治療法です。放射線治療は下垂体腫瘍が大きく、内科療法の効果が十分ではない場合の選択肢となります。
外科手術は、腫瘍化した下垂体を切除する手術です。理論上は病気の根本的な原因を取り除けるため完治の可能性がありますが、特殊な治療となります。
転移が確認されない場合には、可能であれ腫瘍化した副腎を取り除く外科手術が推奨されます。しかしながら、手術に高いリスクが予想されることも多く、内科治療が補助的または代替的治療法として用いられることもあります。
下垂体性クッシング症候群と同様にトリロスタンなどの副腎皮質ホルモン合成阻害剤を使用することで、副腎皮質ホルモンの合成を抑制し、体内のコルチゾールレベルをコントロールします。
副腎皮質機能亢進症は中高齢の犬に多く見られる病気です。
診断は簡単でないため肝臓病と勘違いされ適切な治療が行われていないケースもあります。
副腎皮質機能亢進症は即時に命を脅かす病気ではありませんが、無治療の場合、様々な合併症に悩まされ続けることになり、最終的には命に関わってきます。適切な治療により愛犬のQOL(生活の質)が格段に上がるので、治療する価値が高い病気です。
愛犬の健康を守るためにも、動物病院で定期的な健康診断を受けることが重要です。
早期発見と早期治療は、副腎皮質機能亢進症を含む多くの病気において治療の成功率を高める要素となります。
■副腎皮質機能亢進症に関連する病気はこちらで解説しています。
・犬と猫の腎臓病について┃老犬・老猫の多飲多尿に注意
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